2006年12月 4日 (月)

スターン・レビュー:気候変動の世界経済への影響

近い将来(あるいはすでに)、地球温暖化に伴い世界的な脅威(リスク)となってきている世界規模の気候変動が世界経済へ与える影響を評価し、気候変動を最小限に抑えるための対策に必要な費用(コスト)を算出したレポートが英国で去る10月30日に発表されました。元世界銀行上級副総裁のニコラス・スターン博士が気候変動・開発における経済担当政府特別顧問として英国政府からの委託を受けて詳細な調査を1年間余りに渡って行った報告書で、「スターン・レビュー」(Stern Review: The Economics of Climate Change)と呼ばれています。報告書の全文は、英語ですが、概要は英国大使館のホームページなどから日本語で入手することができます。また、国立環境研究所のAIMチームが精力的に概要(ロング版)の翻訳やコメントなどを行っています。全文の翻訳も4月には、完成するそうです。

[英国大使館:スターン・レビュー]

[スターン・レビュー日本語概要(ショート版)]

[スターン・レビュー日本語概要(ロング版)]

[スターン・レビュー日本語要旨ほか(国立環境研究所AIMチーム)]

[スターン・レビュー全文(英語)]

先週11/28には、スターン博士が来日し、「気候変動と経済」と題した国際シンポジウムが開催されました。残念ながら、私自身は参加できませんでしたが、参加した人のお話と入手した資料では、これまでの日本国内での気候変動への認識をあらたにするに足る、とても有意義なものだったそうです。就任したばかりの若林環境大臣の講演も日本および世界経済に対する気候変動のリスクを正面から受けとめ、とても的を得たものだった様です。この様な認識が政府内をはじめ産業界にまで十分に浸透し、日本国内での気候変動政策や企業の取組みがビジョンに向かって確実に進むことが重要だと思います。

[気候変動と経済 シンポジウム 2006/11/28]
http://www.sternreview.jp/

「スターン・レビュー」の主な内容は、以下のとおりです。これからの10年の気候変動への取組みが非常に大切になり、温暖化対策の遅れは世界規模で取り返しのつかない状況を招くとして、より具体的な警鐘を鳴らしています。

(1) 対策を講じなかった場合の気候変動のリスクと費用の総額は、世界のGDPの5%強に達し、より広範囲の影響を考慮すれば、損失額は少なくともGDPの20%に達する可能性がある。

(2) 温室効果ガスの排出量を削減するなどの対策を講じる場合の費用は、CO2濃度レベルを500~550ppmに抑えるために今すぐに対策を継続的に講じた場合には、年間の平均でGDPの1%程度と推定される。

(3) 対策を怠った場合、長期的に地球全体の平均気温が5℃以上上昇する可能性は50%強となる。この5℃の気温上昇は、最後の氷河期の気温と現在の平均気温の差に匹敵し、その影響は計り知れない。

(4) 現在のCO2濃度レベルは、430ppmであり、年間2ppmずつ上昇している。450~550ppm程度にCO2濃度レベルが抑えられれば、平均気温の上昇はかろうじて許容範囲と考えられている2℃に抑えられる可能性がある。その為には、2050年までにCO2排出量を少なくとも現在の25%削減する必要があり、最終的には80%以上削減する必要がある。

(5) 気候変動の影響は、貧しい国々や人々がもっとも最初に受けると考えられるが、開発途上国を中心に気候変動に順応化する対策が必要となるだろう。それには、より正確な情報の提供、計画の改善、気候変動に強い品種やインフラの開発などが挙げられる。その為の費用の捻出に、CDMを始めとする先進国の炭素市場が必要とされている。

(6) 気候変動への対策や取組みは、長期的lな経済政策と組み合わせて可能であり、低炭素商品やサービスなどの新たなビジネスも生み出している。これらの市場は年間何千億ドルに達する可能性があり、雇用機会も拡大する。

(7) 気候変動に対して、国際規模で効果的に対応するには、次の3要素を政策に織り込む必要がある。

  • 炭素価格で、税金、取引もしくは規制に関する実践
  • 低炭素テクノロジーの開発のサポート、実用化
  • 一人ひとりに何ができるかについて情報を与え、教育し、説得する

(8) 長期的なゴールに向けて国際的共有ビジョンを作り上げ、以下の4つの要素を織り込んだ国際的枠組み構築する必要がある。

  • 国内排出取引の拡大
  • 温暖化対策技術協力の体制強化
  • 森林伐採を減らすための対応策
  • 気候変動への順応化対策

[参考URL]

国立環境研究所が中心となっているAIMプロジェクトチームが行った
レポートのレビューや日本語訳があります。
http://www-iam.nies.go.jp/aim/stern/index.htm

様々な角度からこのレポートを紹介している温暖化に関する
ブログ「温暖化いろいろ」の記事です。
http://www.janjanblog.jp/user/stopglobalwarming/stopglobalwarming/7849.html

11:07 午後 脱温暖化 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年2月20日 (月)

排出量取引

京都議定書が発効して1年が経ち、2008年の第一約束期間が迫ってくる中で、最近、「排出量取引」あるいは「排出権取引」という言葉が良く聞かれるようになりました。もちろん、世の中には様々な環境に悪いものが「排出」されていますが、ここで「排出」されているのは二酸化炭素(CO2)やメタンガス(CH4)などの「温室効果ガス」です。

先日、この排出量取引に関するシンポジウムに参加して来ました。日本国内の排出量取引制度は、現在、この環境省のものが唯一の様ですが、2008年の京都議定書の第一約束期間に向けて海外では様々な動きがあるようです。今後は国内の動きにも注目していきたと思います。

[IGES:公開シンポジウム:国内排出量取引制度]
http://www.iges.or.jp/jp/news/event/event30/index.html

排出量取引に関する主な動きはカテゴリー別に分けると以下のとおりですが、特にヨーロッパでの動きが盛んになっています。

(1) 国際排出量取引制度

世界レベルでの各国が規制の対象となり、国際間で排出枠の取引が可能

例:京都議定書での排出量取引制度(京都メカニズムのひとつで、参加主体は附属書I国)

(2) 域内排出量取引制度

ある特定の地域内の各国・企業等が規制対象となり、その域内で取引が可能
法律や条約に基づいて、企業などに所定の排出枠を配分する「参加義務型」が主流

例1:EU-ETS(EU排出量取引制度)
   2005年よりCO2を対象にスタート(域内排出量の44.5%をカバー)
例2:米国東部7州内排出量取引制度(RGGI) <--- 2009年スタート予定

(3) 国内排出量取引制度

特定国内のみの企業等を規制対象とし、その国内での排出枠の取引が可能
現在は、自主的に排出削減目標を設定する「自主参加型」が主流

例1:UK-ETS(英国排出量取引制度) <--- 2002年から2006年まで実施
例2:環境省自主参加型排出量取引制度 
   第1期2005年度開始(2年間)、2006年度に平行して第2期開始予定
例3:CCX(シカゴ気候取引所) <--- 6種類の温室効果ガスを対象

その他、ノルウェー(2005年から)、カナダ(2008年から)など

(4) 社内排出量取引制度

特定の企業内の各部門・部署を規制対象とし、その企業内で排出枠の取引

事例はあまり知られていませんが、インターネットで検索すると松下電器の取り組みが比較的多く紹介されています。


11:21 午後 脱温暖化 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年2月18日 (土)

脱温暖化2050シンポジウム

16日に開催された環境省主催のシンポジウム「脱温暖化社会に向けた挑戦」に参加して来ました。少し遅れていったのですが、300名入る会場はほぼ満席で、京都議定書発効から1年目のイベントということもあったと思いますが、関心の高さを窺うことができました。これもポスト京都議定書の動きのひとつだと思いますが、この様な動きをきっかけに日本人の苦手な長期ビジョンについて、市民や経済界なども参加して活発な議論や行動ができるようになれば、とても素晴らしいことだと感じました。

[シンポジウム:脱温暖化社会に向けた挑戦]
日時:2006年2月16日(木) 18:00-20:30
場所:青山スパイラル
http://2050.nies.go.jp/sympo/20060216.html

このシンポジウムにあたり、小池環境大臣から日英の共同研究プロジェクト
「低炭素社会の実現に向けた脱温暖化2050プロジェクト」発足に関するが発表
が行われました(ちなみに英国側は、環境・食糧・地方開発省DEFRAだそうです)。

[共同研究プロジェクト発足プレスリリース]
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/2050proj/press/index.html

日本側では、平成16年度から国立環境研究所が中心となって「脱温暖化2050研究」がスタートしており、昨年の11月にシンポジウムを開催しています。
[脱温暖化2050プロジェクト]
http://2050.nies.go.jp/index.html

[第一部]
基調講演の一人目は国立環境研究所の藤野純一氏(まだ30代前半と若い!)。
特に気になったトピックスは、以下の2つです。

(1) 地球シミュレータによる2100年までの温暖化シミュレーション結果
  これは、今週土曜日にNHKで放送されるNHKスペシャルで見ることができます。
    [気候大異変] http://www.nhk.or.jp/special/
(2) COP/MOP1で発表されたCO2排出量に関する各国シナリオ
  大きく3つのグループに分かれる。日米型(漸減)、欧州型(半減)、発展途上国(増加)
   http://2050.nies.go.jp/sympo/cop11_side.html

二人目は、英国エネルギーセンター(UKERC http://www.ukerc.ac.uk )のJim Skea氏。英国での脱温暖化への取り組みを紹介。トピックスを列挙すると...

  • 気候変動に関して警告する本(2005):"Avoiding Dengerous Climate Change"
  • 気候変動に対する危機感が大きい:ライフスタイルや価値観の変革が求められる。
  • 2003年のエネルギー白書において、2050年までにCO2排出量を60%減と明記
  • 京都議定書に対しては、第一約束期間で12%減。超長期的には、2100年で80%減
  • 産業界が参加して、国内での排出量取引(UKETS)を実施。
  • 40% House (40%までエネルギー消費量を削減した家を作るガイドライン)
  • 炭素税や炭素基金、自然エネルギー政策(固定買取価格制度)
  • 企業(産業界)とのパートナーシップが重要
  • もはや将来はエネルギーの自給自足はできない(現在は北海油田により自給自足)

[第二部]
パネルディスカッションは、NHK教育テレビの土曜フォーラムで放映される予定。パネルディスカッションにしては、割とかっちりとしたシナリオの元に実施され、途中で3回以上もビデオが問題提起のために上映されていました。

国立環境研究所の西岡秀三氏とUKERCのJim Skea氏がオピニオンリーダ的に発言していました。西岡氏は、この日本の「脱温暖化2050」プロジェクトのリーダーをしており、日本人が「気候のめぐみをかみしめる」重要性を強調していました。JFS共同代表の枝廣淳子さんも市民の視点から有意義な発言を多くしていました(世界規模で、個人単位で排出量を取引するアイデアや低炭素社会に対して人々の夢やロマンを持つことが大切さなど)。東京大学の花木啓祐氏は、都市工学の立場から、人口減の社会におけるコンパクトシティのあり方について言及。都市と農村が結びつくことの重要性や、日本社会が知的に成熟する必要性など。シャープの富田氏は、太陽光発電などの環境配慮製品の技術の開発や普及が日本の将来にとって重要であることを強調していました。パネラーの各氏とも、真の脱温暖化には、低炭素社会に向けたライフスタイルと世の中の仕組みを変えることの重要性を強調していたことが印象的でした(現在の延長では、2050年の50%減は達成できないとの認識)。

今年6月13日には、国際ワークショップに先立って共同研究の内容などを報告するシンポジウムを開催するとのことでした。今後の活動に注目して行きたいと思います。

11:38 午後 脱温暖化 | | コメント (0) | トラックバック (0)